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日米合作『オー・ルーシー!』平栁敦子監督が撮影の裏側を語る!

NEWS 2018.05.03

寺島しのぶとハリウッド・スターのジョシュ・ハートネットが豪華競演を果たす異色のブラックコメディー『オー・ルーシー!』が公開中。本作が長編デビューとなる平栁敦子監督は17歳で渡米して演技や脚本・演出を学んだ注目株。本作もすでに各国の映画祭で上映され、喝采を浴びました。日本公開に合わせて、監督が本誌に語った制作秘話をご紹介します。本誌10号「映画の裏側ZOOM UP」での特集記事と併せてお楽しみください。

平柳         平栁敦子監督と主演の寺島しのぶさん

                         (C)Oh Lucy.LLC

 

──43歳、事務職、一人暮らしの節子(寺島しのぶ)。なぜ、彼女を主人公に映画を撮ろうと思ったのですか?

 節子を通じて、自分が体験したことを書けると思ったのも一つあるかもしれません。私は17歳で渡米して、英語が話せないせいで「静かな女の子」になってしまいました。周りが思う私と、「そうじゃないのに
と反発する私がいた。怖くて自分を表現できなくて、でも、英語が話せないからといって言いたいことがないわけじゃなくて。私は、一見静かに見える人ほど言いたい事が沢山あるのではないかと思ってるんです。 そういうことを描きたいと思いました。

──深刻なことや心が傷つくことも起きるストーリーながら、ブラック・コメディーになっています。映画にとって笑いは不可欠なもの?

 映画にとってというよりも、笑いとかユーモアは、人生にとって大切だと思うんですね。たとえば、息子を叱っている時に息子がおならをして、思わず二人で笑っちゃう。そうすると、そこまで怒ることじゃなかったかなとか、キリキリしすぎたかもとか思い直せる。ああいう感覚って必要だと思うんです。

──事前リハーサルはなし、撮影現場でもリハーサル少なめ、アドリブOKという撮り方だったそうですが、それによって生まれた名ゼリフ、名シーンなどはありますか?

 大筋は台本の通りです。俳優さんが言いたくなさそうなセリフを抜いたり、セリフの語尾だったり言い方を、俳優さんが言いやすいように変えてもらったりしました。演技が不自然に思うこと、クサさを感じることはそのままにしておけないので。短編の時(2014年制作/21分)は大胆なアドリブもありましたけどね。(主演の)桃井かおりさんはアドリブのプロです。大変学ばせて頂きました。

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──節子と綾子(南果歩)、節子と美花(忽那汐里)など女性同士のやりとりは、容赦のない描かれ方で、見応え満点でした。

 姉妹って独特ですよね。私は姉妹じゃないんですけど、うちの母が三姉妹なので、彼女達を横目でみていました。って、こういう映画の参考にしたみたいなことを言ったら怒られますね(笑)。激しい言い合いをして喧嘩しても、すぐ仲直りして、くっついたり離れたり、独特の関係性だなと思います。

──南さんのお芝居がユニークでしたが、監督から見てどんな女優さんでしたか?(寺島さんについては「テレビ・ステーション」10号「映画の裏側ZOOM UP」に掲載)

 南さんは、澄んだ高い声で柔らかい話し方をするじゃないですか。だけど、芯は質実剛健だったりする、そんな気配もあって。簡単に理解しきれそうにないこと自体が魅力ですよね。複層的というか。今回演じてもらった綾子は、感情と違ったふるまいをする女性なので、ミステリアスな南さんの特性が生きたように思います。

 南さん、大変だったんですよ。ドラマの撮影と並行してアメリカでのロケにも参加していただいて。途中で一度、日本に帰らないといけなかったり、その3日後にはアメリカに戻って来たり。すごいバイタリティー。感謝しています。

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──忽那汐里さんは『デットプール2』(6/1金公開のアメリカ映画)にも出演されている引っ張りだこの女優さんですが、どんなところが魅力的だと思われますか?

 彼女は反骨精神、チャレンジ精神がある人なんですよ。現場でいろいろ話していて、周りから「かわいい女の子」として扱われることに窮屈さを感じているような、そう見られることに反発があるような芯の強さを感じました。オーディションから役に対するコミットメントがすばらしくて、迫力がありました。

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──役所広司さんは特別出演でしたが、すごい存在感でしたね。

 役所さんのシーンは、電車が実際に運行しているホームとか、チャンスの少ないシーンが多かったんです。でも、一発OKでいけることが本当に多くて。たとえば、浴室でのシーンは、衣装が水に濡れるのでそうそう撮り直しができないのですが、一発OKでいいものが撮れました。瞬発力や圧倒的な才能と存在感を感じました。

──ほとんどがロケセットでの撮影だったそうですが、印象に残る出来事などがあれば教えてください。

 ロケハンの時にちょっと鳥肌が立つようなことはありました。アメリカで病院のシーンを撮影できる場所を探していたんです。セットだとウソっぽくなるけど、本物の病院を借りると予算が厳しいのでどうしたものかと思っていたら、閉鎖された病院を紹介されて。その廃墟でロケハンしながら、美術さんと「こういうところってゴーストがいそうだよね」「やめようよ、そんな話をすると(ゴーストを)呼んじゃうよ」って話していたまさにその時、ナースコールが鳴ったんですよ。閉鎖された小児病棟で誰もいないのに。ああ、今思い出してもぞくぞくする!

──さすがに、その廃墟は使わないですよね?

 使わない、使わない。病院のシーンは結局、廃墟じゃない現役の病院の一角をお借りして撮りました。高かった……。

──主要ロケ地の一つ、サンフェルナンド・バレーは映画のスタジオなども多い場所ですよね。

 土地が安いから、広大な土地が必要なスタジオなんかも建っているんですよね。それに、アパートの家賃が安いエリアでもあるので、ジョンを語るのに最適だなと思って。日本ではもてはやされていても、アメリカに帰ったらそういうところにしか住めないというギャップ。ジョンには、ハリウッドの売れない俳優っていう背景があるんですよね。映画では結局、そうと分かるシーンは編集時に全部カットしてしまったんですけど。

──95分の映画で、キャラ一人ひとりの背景がくわしく描かれてはいないけれど、だいたいのことは想像できるようになっていました。

 ありがとうございます。背景やヒストリーはかなり作り込みました。例えば、節子と綾子のお父さんは愛人を作って出奔したとか。だから彼女たちは男性に対していまいち信用しきれないところがあるとか。リハーサルはしないけど、こういう情報は俳優さんたちに伝えたし、俳優さんたちも沢山質問してきてくれて、役がより立体的になったと思います。

──節子がホームで飛び込み自殺を目撃するという冒頭のあらすじが公開されていますが、あのシーンは衝撃的でした。

 役者さんに伝えていたのは、「この映画は必然的な偶然を撮りたいんだ」ということ。すべて偶然だけど、起こるべくして起こっている。会うべき人に会っている。自殺を目撃したことで、節子は何かのドアを開けたんです。あそこで“選ばれて”しまって、いろんなことが動き出す。それはちょっとオカルト的な言い方かもしれないけど、現実問題、トラウマになるようなことを体験すると、人は人を求めると読んだ事があります。誰かにしゃべりたくなる。だから、美花に呼び出されて節子はすぐに出かけて行くんです。

──最後に、この映画を見る人にメッセージをお願いします。

 ポップコーンを食べている手が止まる映画だと思います(笑)。先入観を捨てて、オープンマインドで見てもらえたらうれしいです。劇場でほかの観客と一緒に観たほうが理解できる映画かもしれないので、ぜひ劇場で。難しい映画ではないけれど、2回目のほうが理解できたという人もいたので、できたら2回見てください(笑)。

取材・文/赤坂麻実

 

<作品情報>
『オー・ルーシー!』
*第70回カンヌ国際映画祭 批評家週間 正式出品
*第33回インディペンデント・スピリット賞(新人作品賞/主演女優Wノミネート)
4/28(土)ユーロスペース、テアトル新宿ほかにて公開
日本・アメリカ合作 
脚本・監督/平栁敦子
出演/寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里・役所広司・ジョシュ・ハートネット
配給/ファントム・フィルム

 

 

 

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