NEWS

ブラジルW杯総括レポート観戦ベストゲームはコスタリカ-ギリシャ戦

NEWS 2014.07.31

 7月13日、リオデジャネイロのマラカナン・スタジアム。悲嘆する大多数のアルゼンチン人と、歓喜で抱き合う少数派のドイツ人。それにライバルを侮蔑し、無理やりドイツを祝福するブラジル人に見守られ、2014年のサッカーW杯ブラジル大会は幕を閉じた。

 ブラジルW杯の優勝はドイツ 決勝は子どもも興奮 ブラジル人観戦者

 1970年のペレ、94年のロマーリオ、2002年のロナウド。例えばブラジル優勝の歴史をひも解いても、W杯は「どの国」ではなく、「誰」の大会になるかで成績が決まると思っていた。
 現に、今大会も各国エースの出来が結果を左右した。クリスチャーノ・ロナウドが不調だったポルトガルは予選で敗退し、ネイマールが離脱したブラジルの結果は周知の通り。メッシが最後まで「別格の輝き」を放てなかったアルゼンチンは優勝を逃した。

 しかし今年のブラジルW杯をきっかけに、その考えを改めようと思う。コスタリカ、チリ、メキシコ、アルジェリア、米国など、前評判の高くない「アウトサイダー」の大健闘は、歴史に一石を投じただろう。
 今大会筆者にとってのベストゲームは、決勝トーナメント1回戦屈指の「地味カード」コスタリカ-ギリシャの一戦。ブラジルがドイツに1-7の惨敗を喫した準決勝もまた、歴史的瞬間に立ち会えた興奮があったが、この試合の感動はそれを凌ぐ。

 試合は一進一退の攻防が続くも、後半7分にコスタリカが先制。そこからギリシャが怒涛の巻き返しを見せ、試合終了間際のロスタイム、土壇場で同点に追いつき試合は振り出しに。延長戦でもお互い譲らずPK戦へ。死闘を制し、コスタリカが準々決勝へ駒を進めた。
 その劇的な試合展開以上に観衆の心を打ったのは、全員が力尽きるまで走り、足が届きそうもないボールにも食らいつき、あきらめずにゴールへ向かう、サッカーの原点とも言うべき姿勢だ。この試合に限っては、細かい戦術の分析が野暮にすら思える。
 両国とも自国サポーターの数は少なく、キックオフまで「どちらが勝ってもいい」という雰囲気に包まれていた会場が、気付けば「どちらにも勝ってほしい」と強く望み、両国を後押しした。大会を通じて見たことのない光景だった。
 勝利したコスタリカは、準々決勝でもオランダ相手にPK戦までもつれ込む熱戦を演じ、惜しくも敗れたが、W杯での上位進出に、「特別な1人」の存在は絶対条件ではないと証明してくれた。

 優勝したドイツもまた、誰か1人に頼る戦いをしなかった。今大会は8人の選手が得点を記録し、優勝を決めたゴールを奪ったのは途中出場のゲッツェだ。誰が出ても点が取れたと言い換えることもできるが、試合を観ればGKノイヤーも含めて、攻守にわたり、チーム全体で相手に走り勝った印象を受ける。それは先の「アウトサイダー」たちが見せた姿勢に近く、そこに個々の高い技術が加われば、優勝は必然だったのかもしれない。

 またドイツに関しては、積極的にファンサービスをする様子が地元メディアに取り上げられていた。ビーチを散歩し、求められれば笑顔で写真撮影に応じ、一般の人に混じってダンスも披露する。3位のオランダもファベーラを訪問するなど、多くのチームが地元との交流を大切にしていた。
 それに対して、日本には少し物足りなさを感じる。彼らが公の前に姿を現したのは、FIFAの規定で開催を義務付けられた公開練習くらいだろう。
 確かに代表チームの命題は大会で勝利することであり、そのための環境作りは現場が判断し決めることだ。しかし、ことブラジルには100年以上の歴史を持つ日系社会が存在し、日本の選手たちがやってくるのを楽しみにしていた。天皇や首相も含めて、日本からやってくる要人が必ず参拝する開拓戦没者慰霊碑すら、監督や選手たちは訪れていない。個人的には残念に思う。

 さらにピッチ外の話を続ければ、W杯は権力の象徴でもあった。スポンサーや有力な大企業は、いとも簡単にチケットを確保する。スタジアムに行けばわかる。なぜ販売開始1時間で売り切れたはずの試合に空席ができるのか。空くエリアはだいたい決まっている。スポンサー用に割り当てられたシートが埋まっていないのだ。
 大会運営にスポンサーが必要なのは言うまでもなく、また彼らに「うまみ」があってしかるべきなのもわかる。それでも過剰な優遇は再考すべきだ。
 空席を作るくらいなら、お金はなくともサッカーを日々の生きがいにしている、ブラジルの「真のサッカーサポーター」に座席を使ってほしかった。

4年後ロシア大会の優勝はどこに?

 最後にブラジルの受け入れ態勢については、改めて称賛されるべきだ。どの地方に行っても、人々のもてなしの精神は素晴らしかった。ブラジルに暮らす1人として誇らしい。
 4年後、W杯はロシアに舞台を移す。日本とブラジルが、今大会以上の成績を残すことを切に願って結びとしたい。

最新号はこちら

menu