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日本が舞台のコマ撮りアニメ『クボ』、米アニメ工房のSVが語る製作風景

NEWS 2017.11.21

2017年から2018年にかけて注目作の公開が相次いで決定し、脚光を浴びるストップモーション・アニメーション映画。その先陣を切る『クボ 二本の弦の秘密』(公開中)は、サムライがいた時代の日本を舞台に、アメリカの著名アニメスタジオ「ライカ」が手掛けた意欲作だ。ライカのアニメーション・スーパーバイザーであるブラッド・シフ氏に、アニメ製作の舞台裏を聞いた。本誌24号の「映画の裏側ZOOM UP」と併せてお楽しみください。

 

KUBO_MC_001のコピー

 

――劇中、黒澤明監督っぽい構図だと感じる場面もありました。具体的に、黒澤映画のエッセンスをどのように映画に取り入れていたのですか?

 

シフ:トラヴィス・ナイト監督にとって黒澤作品はインスピレーションの源ですから、構図も含めて影響を受けているだろうと思います。ただ、私の仕事はアニメーション製作なので、キャラクターがちゃんとそのキャラクターらしくなっているか、物腰やしぐさが日本的なものになっているか、そうした視覚的な部分に注意を払っていました。

 

――キャラクターの動きはとてもなめらかで、表情も生き生きとしていました。最も心をくだいたシーンはどこですか?

 

シフ:クボと母親の関係性をエモーショナルに、観客の方に感じ取ってもらうことが重要なテーマでした。映画の序盤で、クボが折り紙で遊んでいる隣で、母親は抜けがらのような表情をしています。それを見るクボの表情は、とてもこだわりを持って作り上げたところです。クボはもちろん母親を愛していますが、同時に彼女に何もしてあげられないという無力感や絶望を感じています。この瞬間のことを皆さんにきちんと伝えることが大切でした。動きはそう多くなく、アニメーションとしてはシンプルなものでしたが、力を持った映像にする必要がありました。

 

――一方で、16フィート(約4.9m)のガイコツや、25万枚のカラーペーパーを費やした落ち葉の船が登場するなど、大規模な作り込みをしたシーンもありますよね。

 

シフ:今作品では、ライカにとって初挑戦のことがたくさんありました。クボたちの船をクボの叔母たち(闇の姉妹)が襲撃してくるシーンも、叔母たちは上空から降下してくるので、撮影現場では12フィート(約3.7m)もの高さで人形に演技をさせました。

 

――ストップモーションアニメの魅力を、あなた自身はどんなところに感じていますか?

 KUBO AND THE TWO STRINGS

 

シフ:ストップモーションアニメの撮影は3ステップです。まず、ポージングを決める。次にリハーサル。これは実際に写真を撮って監督も見え方を確認します。そして、本番の撮影です。1コマ動かしては1枚撮ってのくり返しですが、舞台役者と同じで、本番で想定外のことが起きることもあります。多くは幸せな事故ですし、それがあるおかげでかえって自然な動きに見えたりします。(完全に計算された通りに動くわけではなく)不完全な部分があるからこその美しさがあると思いますし、その美しさが私はとても好きです。

 

――格闘シーンは格闘家を、踊るシーンは振付師を招いているそうですが、それをアニメにどう落とし込むのですか?

 

シフ:人形を撮影する際と同じアングルで動画を撮影して、動画コンテを作り、そのコンテをもとにアニメーターが人形を動かして本番の撮影をします。振付師の方が活躍するのは、そのコンテ作成時ですね。映像に真実味を持たせたいので、ライカの最初の長編映画『コララインとボタンの魔女 3D』から、踊りのシーンがあれば振付師に入ってもらっています。今回はその振付をプロのダンサーたちに踊ってもらいました。彼らは、オレゴン州ポートランドのワシントン・パーク内にあるポートランド日本庭園で、普段から日本の踊りを披露しているんです。普段の動きなら、アニメーターたちが自分で動いてそれを参考に人形を動かしますが、あいにくアニメーターはみんな、ダンスが得意じゃないのでね()

 

――キャラクターの衣装について、配色のこだわりを聞かせてください。

 

シフ:衣装は私の担当外なので、あまりくわしくないのですが……。味方は暖色、敵方は寒色のパレットを使っていましたね。衣装チームのリーダーと美術チームのリーダーがかなりリサーチをして作り込んでいます。

 

――公式資料に綿棒を177187本使用したとありますが、いったい何にそんなに使うんですか?

 

シフ:人形たちの掃除に使っています()。ちょっと汚れたり、ホコリがついたりすると、綿棒の先をアルコールに浸して、ささっと。

 

――製作現場では、イマジネーションを高めるために、たとえば、日本の絵やモチーフを飾ったり音楽を流したりという雰囲気作りのようなことはされたのですか?

 

シフ:三味線の音はかなり流れていましたよ。特に準備段階。実際に奏者の方をスタジオに招いて、みんなでバチの持ち方や三味線の弾き方を学んだりもしました。それぞれのタイミングでアニメーターたちはみんな、かなり聴き込んでいたはずです。

 

取材・文/赤坂 麻実

 

Making1

 

 

■作品情報

『クボ 二本の弦の秘密』(2016年・アメリカ/103分)

監督:トラヴィス・ナイト

製作:アリアンヌ・サトナー

美術:ネルソン・ロウリー

キャスト(声の出演):シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、ルーニー・マーラほか

日本語吹替キャスト:ピエール瀧、川栄李奈ほか

公式サイト:http://gaga.ne.jp/kubo/

 

 

 

 

 

 

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