映画
過酷な宿命を背負った女性・川辺市子の人生を描いた映画『市子』(12月8日㊎公開)の完成披露上映会に、杉咲花、若葉竜也、森永悠希、中村ゆり、戸田彬弘監督が登壇。
杉咲は「感慨深いです。今、この景色を目に焼き付けておきたい」と語る。市子と3年間一緒に暮らしていた恋人・長谷川義則役の若葉は「自分の作品の中でも多くの人に届けたいと思える作品」と胸を張った。また、市子の高校の同級生であり市子の秘密を知る北秀和役の森永は、先に行われた東京国際映画祭での上映後の反応に触れて「SNSでの感想も盛り上がっていて、作品を受け取ってくださっているのを感じられてうれしい」と笑顔に。市子の母親・川辺なつみ役の中村は「すでに映画をご覧になった記者の方から『いまだに検索してしまう』という様な言葉をいただいたりしてうれしかったです」と、高評価に喜びを見せた。
謎めいた過去を持つ主人公・市子を演じた杉咲。昨年の真夏に行われた撮影を回想し「味わったことのないような経験をさせていただきました。演じ手としての、こう表現しなければという欲がはがれ落ちて、目の前で起こっていることに対して反応してしまう時間。グワングワン心が揺さぶられるような時間を過ごせたのは初めての体験。それだけ引力のある作品で、素晴らしい経験をさせていただきました」と新境地を自負していた。一方、朝ドラ『おちょやん』で杉咲と共演していた若葉。「僕は杉咲さんに朝ドラでもプロポーズをしたんですけど……いつも上手くいかないなと思いました。なかなか厳しいですね」と会場を笑いにつつんだ。また、「観客と同じ目線に立って市子を追いかけていき、市子を垣間見ていく。演じる上では形骸的な芝居や鮮度のない芝居ではダメだと思った。全神経を使ってその場所に佇みました」と演じた際の想いを打ち明けた。
自身の戯曲を映像化した戸田監督は、「市子を追いかける映画ではあるけれど、市子=他人を理解することの難しさをテーマにしたところもあります。それを映像として杉咲さんのお芝居をカメラで捉えながら、いかにそのような印象を与えられるかを考えました」と狙いを明かした。さらに、杉咲は「市子を語る方々のシーンを見た時に、こんな風にそれぞれの人に市子が影を残していて、それぞれの市子像があったのかと思ってハッとしました」、若葉は「切なすぎるがゆえに笑ってしまう様なシーンもあって感情をかき乱された。こんなに悲しくて面白いことがあるのかと思わされた」、森永は「市子にはもっといろいろな選択があったのではないかと思った。歯がゆい思いをしながら観ていました」としみじみ。中村は、新人時代にあるプロデューサーから言われた「陽の当たらない人に光を当てた映画を作りたい」という言葉を引き合いに「自分の中にもそのような思いがあるので、完成した作品を観た時に『私もそういう映画に携われた!』と嬉しかった」と喜びを語っていた。
また、夏の撮影にこだわったという戸田監督だが「地獄のような夏だった」と振り返り、杉咲も「本当に暑かった」と苦笑い。そんな杉咲は、本物の汗を大切にすると言った若葉の姿を振り返りながら「さすがだなと思って自分も見習いたいと思ってある撮影の時に若葉さんのことを見たら、思い切り氷嚢を当てていて。メッチャ涼んでるじゃん!と思った」と暴露。これに若葉が「体調を崩すくらい暑かった。天秤にかけた時に、健康的に撮影できる方を選びました」と笑いながら告白すると、杉咲は「仰る通りです。大量管理が大事なので」と微笑んでいた。
最後に杉咲は「市子を演じた時間は引き裂かれるような痛みがあったと同時に、自分の中の大切な記憶として何度も再生したいような多幸感にあふれた時間でもありました。どんな環境にいたとしてもその人のことはその人にしかわからない。その上でどれだけ他者と関わっていくことが出来るのか?と突きつけられるような映画だと私は思います。この映画を観て心が揺さぶられるようなことがあれば、それを多くの方々に伝えてほしいです」とのあいさつで締めくくった。
映画『市子』は、12/8㊎公開。