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リオの国際空港から車で1時間半ほど。リオ五輪に向けたインフラの整備のため、いたる所で工事が行われているリオの町を抜けて、向かった先は「CFZ」サッカークラブ。
今回そこでインタビューを行ったのは、同クラブのオーナーでもあるジーコ氏だ。当初30分間を予定していたインタビューも、気づけば50分間話してくれた同氏。そこで語った「日本人の失点に対する意識改変の要求」は、DFが泣き所という見方もあるザックジャパンが肝に銘じるべき提言かもしれない。
ジーコ氏は2006年ドイツW杯で日本代表を率いた。印象に残る試合は、2004年に中国で開催されたアジアカップの決勝戦。完全アウェーの北京で、中国を相手に3-1で勝った試合を挙げた。現在同氏は、サッカーの現場からは離れており、講演やイベント、トークショーをこなしていると言い、「実は(取材の)1週間前に、10年ぶりにあのスタジアムに行ったんだ。ブラジルと中国のスポーツ文化交流40周年でね。あの日の興奮がよみがえったよ」。
そしてもう一つ、W杯予選で12試合中11勝した結果に胸を張った。「簡単なことじゃない。あの時は代表の快進撃もあり、日本のサッカーが一歩進んだ時期だったと思う」。
しかしW杯本大会では、結果1勝も挙げることができなかった。今年日本がブラジルの地で勝利を挙げるために、同じ代表監督とし、ザッケローニ氏にアドバイスすることは何かあるのか。
「私から伝えるべきことは特に思いつかない。私はかつてイタリアのウディネーゼでプレーしたことがあるけれど(1983~85年)、ザッケローニ氏はウディネーゼを率いて(1995~98年)、チームを躍進させた。その時から尊敬しているよ」と答えた。
その返答を待って、筆者が次の質問に移ろうとすると、ジーコ氏は自ら口を開きこう付け加えた。「あえて言うとすれば、W杯で重要なのは緊張状態の中で、いかに精神を安定させるか。日本にはそのマネジメントが必要だ」。
昨年のコンフェデ杯のイタリア戦、日本は前半途中まで2-0と優勢に進めながら、その後10分の間に3失点し、結果3-4の逆転負け。またジーコ氏が率いたドイツW杯でも同様のことが起こっていた。「初戦のオーストラリア戦、試合終了まで残りあと8分のところまで1-0で勝っていた。なのにそこで1点取られたら立て続けに3失点。失点すると精神的に浮き足立ってしまう。これが日本の欠点だよ」。
ではどうすればその課題を克服できるのか。ジーコ氏はもろ手を挙げて、お手上げだと言わんばかりに「その答えがあるなら私が知りたかったよ」と苦笑いした。
しかしすぐに表情を直し、少し間をおいてこう答えた。「きっと国民性なのだと思う。他の国では考えられないのだけど、なぜか失点に対して過剰な恐怖感や失望感がある。ゴールを奪い合うスポーツなのだから、得点できることもあれば、失点もする。すべて思い通りにはいかないけれど、それがサッカーなんだ。この当たり前が経験として分かれば、日本はもっと強くなる」。
「メンタル」が、サッカーにおいて技術や戦術で改善できる課題なのかはわからない。しかしジーコ氏が指摘するように、大舞台での「やられ方」は失点後の戦い方に起因しているのかもしれない。今年のW杯では、1つのポイントになりうるだろう。
話題をブラジルへ移し、懸念されるデモについて考えを聞いた。
「政治や社会に対する主張は尊重しなければいけない。でも時期は考えてほしい。W杯で多くの人が集まる時期を選ぶのは賛成できない。今から開催取り消しにはならないのだから」と話し、「これまで他国でW杯開催時はみなお祭り騒ぎなのに、なぜ自国に限ってと思うよ」と肩をすくめた。
その自国開催のW杯で、ブラジル代表は優勝できるか。「私は85%優勝できると見ている。バランスのよい戦術を立てられるし、各ポジション競争力もある」。
100%と言い切れない、残り15%は具体的に何か。「勝負は相手があることで、結果は保証できないからね。アルゼンチン、ウルグアイ、ドイツ、スペイン、イタリア、このあたりは強敵だ」。
日本の展望はどう考えるか。
「ごめんよ、でも日本の状況が易しいとは言えない。初戦の結果次第で、決勝トーナメントには上がれるだろう。まずは初戦」。
日本の命運を握る初戦まで、あとわずかだ。
【筆者紹介】
夏目祐介 YUSUKE NATSUME
1983年東京生まれ。早稲田大学、英国ローハンプトン大学院(スポーツ社会学)卒業。2009年ベネッセコーポレーション入社、2013年同退社。W杯のためすべてを捨ててブラジルへ。現在ブラジル邦字紙「サンパウロ新聞」記者。