
ドラマ
伯母の孤独死に動揺して“終活”を始めた鳴海の奮闘の日々を描く綾瀬はるか主演ドラマ「ひとりでしにたい」(NHK総合・毎週㊏後10時)。3話(7/12㊏放送)を前に、制作統括の高城朝子プロデューサーが改めて企画の背景やキャストの仕事ぶりに感じ入ったこと、ドラマに込めた思いなどを語った。
※発売中の本誌15号では、「ひとりでしにたい」特集記事を掲載中。高城Pのインタビューは本記事と書き分けていますので、ぜひ併せてお楽しみください!
——高城さんは、原作になったカレー沢薫先生の漫画「ひとりでしにたい」の愛読者なんですよね?
とても面白く読んでいたんですけど、私自身も主人公と同じ“未婚・子なし”なもので、あまりに自分に近い話だから怖くもあって。ドラマ化したいとかそういうことを考えるのは避けていた気がします。
ところがある時、小林直希ディレクター(※本作3話の演出を担当)が「これ面白い」「ドラマ化したい」と持ってきてくれたのがこの漫画で。20代男性の彼がなぜこの漫画を面白いと思ったのか、聞いてみたんですね。彼は子供の頃から景気の悪い世の中しか知らない世代で、自分は恵まれていないように感じていたらしいんですけど、この漫画を読んでみると、自分は男性だというだけで楽に生きてこられたほうなのかと認識が改まったそうなんです。それで「終活だけじゃなく女性が抱える悩みをちゃんと知りたいと思った」と話してくれて。それを聞いて改めて原作を読んで、私もやっぱりこれをドラマにしたいと思いました。
——カレー沢先生とはかなり密にコミュニケーションを取られたんですか?
そうですね。脚本ができる前から、“私はこんな人間です”“お願いします”という意味で顔合わせをして、以降、何度かお会いして、取材のようなことをさせていただきました。キャラクターが生身の人間になって動くので、「鳴海ちゃん、料理はしますかね?」とか「部屋にはどんな色の物が多いんでしょうね?」とか、そういうことも知りたくて。「料理はするけど凝ったものは作らない」だとか、ヒントをたくさんいただきました。
先生との2回目は、綾瀬さんも先生にぜひ会いたいということで、脚本の大森美香さんも交えて4人でお会いしました。先生あまりお酒が強くないのに、緊張をまぎらわすためか結構、早いペースで飲んでおられて。ちょうど綾瀬さんがいらした瞬間にトイレに立たれたのが面白かったです(笑)。口数が少なくて、物静かな方なんです。「この人があんな毒を!?」と思うような。
——原作も終活を扱いながらもところどころ噴き出してしまうギャグ漫画ですが、ドラマはマイルドさが増して、老若男女を問わず楽しめるテイストになっていますよね。
独身の女性がひとりで生きているとそれだけで、なぜか「かわいそう」と見られてしまって「え、かわいそうなのかな、私。楽しいんだけどな」とモヤモヤしたりする。そういう悲愴感とは無縁のドラマにしたかったんですよね。だから、老若男女みんなに好かれてハッピーなオーラに満ちて、絶対にかわいそうに見えない綾瀬はるかさんが主演なんです。
脚本の大森美香さんのお力もすごく大きいですね。例えば、鳴海(綾瀬)が愛猫の魯山人とダンスするシーンは、あれ私の話なんです。私も普段、家の中で音楽をかけて猫と踊ったりしていて(笑)、そんな話を大森さんにしたら、あんなに楽しくてステキなシーンを書いてくださいました。
——本作では、綾瀬さんのコメディエンヌとしての才能も発揮されていますよね。
面白い表情の追求とかもすばらしいものがありましたけど、ダンスなんかも本当に熱心に練習してくださいましたね。綾瀬さんは勘がいいのですぐ出来るようになるんですが、それをさらに磨き込むというか。撮影の合間、みんなを巻き込んで練習されていました。
綾瀬さんはちょっとのこともみんなで楽しめることに変えてくれる人なんですよ。例えば、次のシーンで使うケーキのことを、美術さんが「あとでみんなで分けますよー」と言ったら、「あなたは絶対これを選ぶ」「あなたはこれかな」と言ってみたりして周りを巻き込んでみんなを笑顔にしてくれる。こんなにセリフの多いドラマ、大変に決まっているのに、いつもそんな感じなんです。綾瀬さんがそういう人なので、スタッフも“綾瀬さんのために”という思いでまとまっていくんですよね。
——那須田優弥役の佐野勇斗さんの起用理由を聞かせてください。
(高城Pが制作統括を務めた)「おとなりに銀河」(23年NHK)に主演してくれた時、寒かったし大変な撮影が続くなかで現場を引っ張ってくれました。あの時も「橋田寿賀子ドラマかな?」っていうぐらいセリフが長かったのに、佐野さんは現場に台本を持ってこないんですよ。セリフは完璧に入れて来ている。すごい俳優さんだと思いました。
あれから彼はさらに人気者になって、でも今回、私も勝負したい作品だし、「助けてくれないかな?」という気持ちでオファーしたら、快く引き受けてくださいました。
今回もすごいセリフ量だし、しかも内容が難しかったりするんですけど、どんなに早口でも彼のセリフはちゃんと“聞こえてくる”んですよね。頭がよくて、ちゃんと理解した上でしゃべっているから、ドラマを見る人にも、那須田の言うことがちゃんと入ってくるんだと思います。
——光子伯母さんという大変な役を山口紗弥加さんが引き受けて演じているのもかっこいいと思いました。
山口さん、本当によく引き受けてくださったなと思います。ご本人はどうして受けてくださったのかとか、特に何もおっしゃらないですね。結局、このドラマは光子伯母さんのことをかわいそうだと思った鳴海ちゃんが、自身も人からかわいそうに見られたりして、自分のしたことに気づく物語でもあると思うんです。
そういう光子の役を通して伝えたいメッセージみたいなことをすぐに分かってくださって。一も二もなく「じゃ、やるー?」みたいな感じ。いや、ステキですよ。プロレスのシーンもあるんですけど、やり過ぎじゃないですか、事務所的に大丈夫ですかと思うぐらい、振り切ってやってくださっています。対する松坂慶子さんも自ら大胆なデザインのコスチュームを選んでおられて。俳優陣の役者魂に頭が下がります。
——このドラマは、見た人の心にどんな影響をもたらすと思いますか?
人って、分からないことが怖くないですか。老後2000万円問題が3000万円、4000万円に膨れ上がるとか、いろいろ言われていますけど、分かっていればいろんな意味で準備ができたりして、怖いとは思わなくなると思うんです。このドラマでは、鳴海ちゃんがこれから死ぬまでに起こりうる問題に立ち向かっていて、それも明るく立ち向かっています。それを見ていただければ、「死ぬのが怖くなくなる」とは言いませんが、分からなかったものが分かっただけ、明るい気持ちになれるかもしれない。そうなるといいなと思っています。
取材・文/赤坂麻実
(放送情報)
土曜ドラマ「ひとりでしにたい」
NHK総合 毎週㊏後10時~10時45分