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ブラジルの強豪グレミオが昨年業務提携し、今年スポンサー契約をした日本のサッカークラブがある。よく知られたJクラブではない。
FC大阪。‐J1、2、3の下部リーグJFLのさらに下部に位置する地域リーグの関西リーグ1部に所属するクラブだ。いわばブラジルの超名門と「格差提携」を成し遂げた同クラブ。そのFC大阪が、とても面白いことになっている 。
FC大阪は1996年に創立し、2006年に法人化した。会長の吉澤正登氏は、社長を務めていた人材派遣会社を売却し、サッカービジネスの世界に転身。同クラブは「大阪第三のJクラブ」を目指すプロクラブとなった。
吉澤会長の経営理念「納税と雇用の促進による地域密着」は同クラブの象徴の一つ。サッカークラブの地域貢献は精神的に地域を大切に思うだけでなく、経済を活性化し、人々の生活を豊かにして初めて成り立つという考えだ。そのため同クラブの運営会社であるアールダッシュは、「FC大阪コンテンツ」を用いて多角的にビジネスを創造。地域に還元するために、まずは母体を強くすべく、収益を意識したクラブ経営をしている。
その一例がグレミオとの業務提携だ。相互の認知とマーケット拡大を目的とした提携で、アールダッシュはグレミオのサポータークラブを日本に創設。またグレミオスクールを大阪に2校開講し、現在幼児から小学生までがグレミオの技術や理念の習得に励んでいる。
さらに今年グレミオがFC大阪のスポンサーとなったため、今シーズンのユニフォームには、グレミオのロゴが刻まれており、将来的には選手やコーチなど人的交流も視野に入れている。
FC大阪にとってクラブが利益を上げることは重要だが、彼らにとってサッカーは金儲けのためのツールではない。同クラブの根本にあるクラブ理念は「サッカーを愛する人たちに夢の舞台を提供する場でありたい」なのだという。これを体現する代表的な活動が、プロサッカー選手を目指す子どもたちの裾野拡大だ。
FC大阪は「FC大阪ブラジル」というブラジル支部を持っている。このクラブはブラジル国内外で活躍できる若手育成を目的とし、2012年にブラジル南部のポルト・アレグレという都市に設立した。吉澤氏は「ブラジルではどんなにサッカーがうまい子どもでも、田舎にいてスカウトの目にとまらなかったり、代理人に恵まれなければプロにはなれない。ポテンシャルがあってもチャンスがない、そんな子どもたちの手助けがしたい」と語る。
これに似た活動は日本でも行っている。サッカー選手を目指す子どもたちのための高校を作ったのだ。
日本の高校生はよくも悪くも学業が優先で、サッカーは部活で限られた時間に限られた場所でしかできない。このため選手は16~18歳の伸び盛りの時期に練習時間を奪われ、サッカー選手になる上では学業が妨げとなることもありうる。吉澤氏はここに課題を感じ、「サッカーを単位として認めてあげれば、高卒の資格を与えることができる。プロを目指してほしいけれど、仮にサッカーでドロップアウトしても大学に行ける道筋を作ってあげられる」と創設を決断した。
FC大阪は、多岐にわたる事業展開や、スポンサー集めにも長けているため、チームはすでに地域リーグを戦うクラブ以上の経営状態にあるという。今年4月のシーズン開幕前には、Jリーグで活躍した経験のある選手を大量に補強。優秀なブラジル人選手の獲得も進んでいて、チームの強化は着実に進んでいる。
FC大阪の強化目標は「AFC(アジアチャンピオンズリーグ)に出られるクラブ。アジアの中で確固たる地位を築くこと」だというが、10年20年後、JリーグにFC大阪旋風が巻き起こっても決して不思議ではない。サッカーへの想いを実利に代えて、地域ごと強くしようとするサッカークラブ。FC大阪はこれからさらに面白いことになるだろう。
【筆者紹介】
夏目祐介 YUSUKE NATSUME
1983年東京生まれ。早稲田大学、英国ローハンプトン大学院(スポーツ社会学)卒業。2009年ベネッセコーポレーション入社、2013年同退社。W杯のためすべてを捨ててブラジルへ。現在ブラジル邦字紙「サンパウロ新聞」記者。