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サンパウロ州イトゥー市。W杯期間中日本代表がベースキャンプを張ることで知名度が上がったその町で、3月24日から30日まで、「日伯(ブラジルの意)国際サッカートーナメントメント」というU14、15の選手によるサッカー交流大会が開催された。
そして同大会には、かつて川崎フロンターレやロンドン五輪日本代表の監督を務めた関塚隆がゲストとして参加した。
来伯は現役時代も含めて5度目だという関塚は、大会期間中は日本からの選手たちと同じ宿舎に寝泊まりし、生活を共にした。同時に関塚は、大会前後合わせて1カ月ほど長く滞在し、サントスやアトレチコ・ミネイロなどのクラブを視察して回っている。
通常、クラブの施設内に入り、トレーニングを見ることはなかなかできないが、「サントスはオズワルド・オリベイラ、アトレチコ・ミネイロはパウロ・アウトゥオリ(どちらも元鹿島アントラーズ監督)が監督で、僕は親しくしているから。ブラジルの「アミーゴ文化」はいいね。ありがたいことに『よく来たな』って気持ちよく入れてくれた」という。
視察はトップチームだけでなく、U15、17、20といった育成年代にも及び、「一日五食。朝、昼と軽食、夕食に夜食を食べるんだよ。驚いたね」と話し、「サッカーだけじゃなくて、学校も通わせて栄養管理までしてプロを育成するシステムだから。育成がいかに大事かですよね。滞在中は時間が許す限り見たい」と期待を込めた。
取材は、大会初日のU14の交流試合をスタンドで観戦しながら行ったが、ブラジルに来ている日本の選手たちを指導しないのか尋ねると、「いや彼らの目的はブラジル人コーチに習って、ブラジルのチームと試合することだからね。指導はしませんよ。今のところは、だけどね」とまんざらでもない様子。
そんな関塚に対する筆者のイメージは熱血漢の監督だ。タッチラインぎりぎりまで飛び出し、大声で選手に指示を出す姿は強く印象に残っている。
「ずっと指示しているわけじゃなくて、自分も一緒に戦っているんだっていう姿勢だよね」と言い、「ただフロンターレ時代はそうしてたけれど、五輪とか経験を重ねてね。ベンチで状況を受け入れて見守る時間も増えたよ」と笑った。
関塚はロンドン五輪で日本代表を率いてベスト4に導いている。その時の印象を「ブラジルもだけど、イングランドもサッカーの本場でしょ。雰囲気がよかったよね。スタジアムもいいし。観客の目も肥えていた」と振り返った。
同五輪で優勝候補のスペインを破った予選の初戦は「(試合会場の)グラスゴーの奇跡」「いや奇跡ではない実力だ」とマスコミを賑わせた。
「スペインとはまだ力の差はあるなと思ったけれど、対欧州の戦い方はだいぶ慣れてきた印象。日本がもうひとつ上に行くために、南米スタイルとどう戦うか考える段階に来ているのかなって思うね」。
そう語ると、ピッチでプレーする選手たちに目を向けてこう続けた。「ブラジルのトップチームを見ていて、以前よりも球離れが早くなって、パス回しのテンポも速くなったと感じたけれど、根底にあるのは一対一で勝負して相手をはがしていくサッカーだ。ブラジルの育成年代を見ていると、そのすべての基本はボールを止めて蹴るってことだと気づかされる。ここに来るとサッカーの原点を感じられるよね」と話した。
ブラジルでのW杯まであと2カ月半となった。ザッケローニジャパンには、メンバーを固定しすぎているなどの批判もあるが、「それは僕も同じですよ。代表監督の仕事は選手個人をレベルアップさせてチームを作るというより、合った選手を選ぶっていう仕事なんだ。まして選手が一緒にプレーできる時間が少ないから、結果が出ていれば変えないのは原則。疲労やけがを考慮して、それをターンオーバーでどう切り抜けていくかを考えますね」と見解を述べた。
最後に思い切って聞いてみた。いずれA代表を率いる意欲はないのか。
関塚は少し考えて慎重に答えた。「まあ、がんばっていきたいですね」。
【筆者紹介】
夏目祐介 YUSUKE NATSUME
1983年東京生まれ。早稲田大学、英国ローハンプトン大学院(スポーツ社会学)卒業。2009年ベネッセコーポレーション入社、2013年同退社。W杯のためすべてを捨ててブラジルへ。現在ブラジル邦字紙「サンパウロ新聞」記者。