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【独占取材】4/19㊏放送「新プロジェクトX」“初音ミク 誕生秘話” 本編制作の裏側に迫る「捉え方が一つでないところが初音ミクの魅力、アイデアを見せ合う場所が初音ミクによって生まれた」(村田匠D)

その他 2025.04.17

 

 昨年、18年ぶりに復活した群像ドキュメンタリー「新プロジェクトX~挑戦者たち~」(NHK総合)。新シリーズではバブル崩壊後の“失われた時代”を主戦場に、様々なプロジェクトにかかわった人々の人間ドラマに迫る。4/19㊏の放送では、音楽の世界に革命を起こした“初音ミク”にクローズアップ。執念の開発劇を取材した担当ディレクター・村田匠さんに、番組制作の裏側を聞いた。

 

 

■開発者の物語に迫るため、延べ3ヵ月にわたり取材

 

 「新プロジェクトX~挑戦者たち~」は、全国のNHKの放送局から企画を募っています。私は、静岡放送局でローカル番組のディレクターをしているのですが、県内を取材するなかで、歌声合成技術(ボーカロイド=歌詞と音階を入力することで、人間が歌っているような楽曲を作ることができるソフト)を開発したのが、静岡に本社がある楽器メーカー(ヤマハ株式会社)ということを知りまして。私自身、学生時代から“ボカロ”に1ファンとして触れてきたこともあり、今や一つの文化と認知されている一連の現象は、すごいと感じていました。その一方、ボカロの象徴ともいえる“初音ミク”について、開発秘話に焦点をあてた番組は、これまであまりなかったのではないかと。「新プロジェクトX」では、バブル崩壊後の時代に焦点をあてているわけですが、初音ミクは、まさに失われた時代に誕生し、受け入れられていった存在。番組のテーマとしてふさわしいと考え、企画を立ち上げました。
 番組作りを進めていくにあたって、本当に多くの方にご協力いただいたのですが、なかでもたくさんお話を聞かせてくださったのが、ボカロの生みの親である剣持秀紀さん(ヤマハ)。剣持さんとタッグを組んで、初音ミクの開発に携わった伊藤博之さん、佐々木渉さん(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)のお三方でした。制作にあたって番組プロデューサーから言われていたのは、「この番組は、人の物語である」ということ。それが番組の肝になりますので、お三方にはとにかく何度もお時間をいただきました。開発に関すること以外にも、生い立ちであるとか、ご両親の職業であるとか。「そんなことまで聞かれるとは」と苦笑されるほど、根掘り葉掘り。でも、人の物語というのは、そういう見えない部分にこそ宿るものだろうと思っています。プロジェクトの根源に何があるのか探るという意味でも、その部分は特に大切に、番組作りに生かしていきました。

 

 

■開発の源流にあったものは互いを認め合う自由な音楽

 

 取材するなかで感じたのは、開発に携わった方々は、初音ミクをあくまで“創造性を引き出すツール”と捉えているということでした。大事なのは、皆さんが持つ「何かを作りたい」というクリエイティビティで、初音ミクは、それを引き出すための道具である、と。番組でも、ツールとしての初音ミクを意識して、それをどういう人たちが、どんな思いで作ったのか。そして、使っている人たちはどんなことを感じ、なぜ使っているのかに焦点をあてています。
 一方、初音ミクのファンには、キャラクターやビジュアルが好きで応援している方や、作り出された音楽が好きでアーティストの一人と捉えている方など、いろいろな方がいらっしゃる。そういう多彩な側面があること、一つに縛られていないことこそが、初音ミクの魅力であり、今の時代らしい新しさなのではないかと思うんです。際立っているのは、その多様性を、それぞれが互いに認め合っているところ。創作に自由さがあるから、聴く人も何かしら自分に刺さるものがあるし、開発に携わった方々もそうした多様性をリスペクトしている。だからこそ、今日の初音ミクという一つの文化、ジャンルが築き上げられているのではないかと思います。
 ボカロ音楽には、「こんなものを作ってみました」という人がいて、「それ、面白いね」と受け取る人がいる。“アイデアを見せ合う場所が初音ミクによって生まれた”というのが、文化の源流にあるんじゃないかなと。番組では、そうしたアイデアによって生み出されたボカロの楽曲をたくさん紹介していきます。これまで全く聴いたことがないという方にも、ぜひこの機会に聴いていただきたい。そして、初音ミクという現象の背景に、どんな思いがあるのか。あまり触れてこなかった方にこそ、興味を持って見ていただけたらと思います。

 

 

■“好き”を突き詰めた情熱が音楽を変えた

 

 初音ミクの誕生で、音楽は単に“受け取るもの”から“作るもの”に進化した。「開発に関わった方々は皆さん音楽好きな方ばかり。本当に音楽こそが生きがいというくらい。だからこそ、同じ音楽好きの方々の気持ちが理解できたのだと思いますし、好きなものを突き詰めていったからこそ、たくさんの人に届き、社会を変えていく大きな現象になったのかなと思います」。

 

 

村田匠ディレクター
むらた・しょう◎1996年生まれ。NHK静岡放送局コンテンツセンター所属。
現在は、静岡県のローカル番組「たっぷり静岡+」でディレクターを務める。

 

(取材・文/海老原誠二)

 

▼番組情報

4/19㊏
「新プロジェクトX~挑戦者たち~」
情熱の連鎖が生んだ音楽革命 ~初音ミク 誕生秘話~

NHK総合 後8時~8時48分

 

 

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