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直情旅日記
時には日常の向うへまっしぐらが好きな人へ

[3]ベトナム・ハロン湾でパクチーを克服する

 途中ドライブインでのトイレ休憩(女性用トイレもドアなしの「溝」だったので断念)を経て、バスはバイチャイの町に入り、「ここだよ」と唐突に降ろされました。去るバスを見送る、現実に引き戻された私とその瞬間まで警戒して固まっていたS。その温度差に二人で大笑いしたらお腹が空き、埃っぽいバスターミナルの向かいの店で、フォーを頼みました。
 お決まりの「パクチー入れないで」というフレーズをここでも発したばっかりに、出てきたのは、パクチーだけでなくもやしやネギまで抜かれてしまった、寂しい私のフォー。そしてそれらが全部入ったSのフォー。「ちょっと食べてごらんよ」とSが丼を交換してくれました。……あらやだ、全部入りの方が断然美味しい。カッと目を見開いてキッと振り返って「これ美味しい!」とベトナム語で言ったら、お店のおばちゃんの顔がみるみるゆるんで、「ライムいるかい?」「これも入れてみな」(想像訳)とオプションの調味料がちゅーと注入されました。潮風が蒸し暑くて体中べたべたに汗をかいている時に、熱くて辛いものを食べる爽快さ。そしてこれにはパクチーが必須。もう「パクチー入れないで」なんて二度と言いません。

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<ホンガイへ渡るフェリー>

 折角2時間半かけてハロン湾に着いたものの、この日のうちにハノイに帰る我々にはクルーズをする時間はなく、対岸ホンガイへの連絡フェリー(所要時間5分)に乗るくらいが精一杯。車もバイクも人間もいっしょくたにそれーと乗り込みます。フェリーを待っている間、英語で話しかけてきた若者と少しおしゃべり。彼がホンガイで生まれ育ったと聞き、ああ世界は同時進行で、すべての人間に実にいろんな人生が流れているのだなあ、としみじみ思いました。

 ハノイに帰る長距離バスは、行きと違って満員でした。補助席を全部出し、かつ4人席に5人が密着して座ったり、お客の巨大で大量の荷物が全員の足元を占拠していたり、狭いので顔に肘鉄を食らったりして、もうぐだぐだです。そしてまるでスピードレースのようにすごい勢いで飛ばします。車掌の若者が走行中のドアを開けて半身を乗り出し、「どけどけー(想像訳)」とバイクをよけさせながら、バスは我々が今まで経験したことのないスピードで走ります。外は真っ暗闇になり、蒸し暑い車内を生暖かい風がびゅうびゅう吹き抜けていく汗だくの超満員バス。隣のSは命の危険を感じていたそうですが、私は針を振り切ったようにこの状況が突然大変に気持ちよくなり、このままいつまでも乗っていたいと思いながら恍惚としていました。

 パクチーだけでなく何か他のものにも開眼したような気がするハロン湾への旅、またいつかSと行きたいと願っています。

 

【筆者紹介】
村野氏村野千草(むらの・ちぐさ)

北海道生まれ。大学で西洋史を専攻、セツ・モードセミナー卒。いつもどこか異国の街を歩きたいと妄想しているイラストレーター兼グラフィックデザイナー。趣味は洋裁。旅のスタートは、まずそのための洋服を縫うところから。