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直情旅日記
時には日常の向うへまっしぐらが好きな人へ

「白と青と金の聖堂を見に、ロシアに行く」

ある夜仕事で画像検索をしていたところ、検索結果の中に一枚、とんでもなくかわいい建物が紛れていました。白いマットな建物の頭に、金と青のいくつもの葱坊主屋根。その青の屋根には、金の星が沢山散っているのです。この衝撃的にファンシーな建物は、ロシアのウスペンスキー大聖堂でした。息が荒くなるほどの一目惚れ。行かなくては!

ウスペンスキー大聖堂

それから約半年後、アエロフロート機に乗って、私と同業者Nは初めてのロシアに着きました。4月終わりのモスクワは日差しが強烈で、半袖を持ってこなかったことを悔やむ暑さです。スーパーには潤沢に商品が並び、街ゆく人は男も女もカラフルで美しく、中心部の建物は色合わせもディテールも絶妙にかわいい。

ウスペンスキー大聖堂は、モスクワから列車で1時間半のセルギエフ・ポサードという街にあります。
朝、鉄道駅の窓口に、何度も練習したカタコトのロシア語で突撃。
「ずどらーすとう゛ぃちぇ(こんにちは)
どぅう゛ぁー(2枚) びりえった(切符)
とぅだー(行く) い(と) あぶらーとぅな(戻る)
だ(~へ) セルギエフ・ポサード、ぱじゃーるすた(お願い)」
ああ全然知らない言葉を口に出してみて、それがちゃんと伝わるって面白い。今もし新たに外国語を習えと言われたら迷わずロシア語を選択するでしょう。窓口の女性は切符と共に、行き先の駅名や時間、途中で降りる旨を笑顔で紙に書き出してくれました。

1時間半の満員列車の車窓から見えたのは、森・林・湿地・田舎の町・野原のはずれの大型犬2頭の死体。親切な周囲の人たちに促されてセルギエフ・ポサードで下車し、「地球の歩き方」の道順説明文のままに、埃っぽい町を右に左にと15分ほど歩いていたら、突然ぱっと視界が開けました。広大な谷、遮るもののない青い空、その向こうに、おおお、あの光り輝くウスペンスキー大聖堂と、それを擁するトロイツェ・セルギエフ大修道院が! はるばるやってきた!

女性は髪を覆うというきまりに従い、ストールを頭に巻いて門をくぐると、大聖堂の後ろ側に出ます。はやる胸をおさえて、もみの木の樹上に見える青い屋根に目が釘付けのまま、ぐるりと正面まで回ってきました。
ベンチに座り、目に染みるほど白い聖堂をしばし無言で眺めます。ううう美しい。残酷な逸話がいくつも残るイワン雷帝が建てさせたそうですが、なんてファンシーな聖堂でしょう。あそこにあんなに星を散らすなんて、どうかしている。(古い絵画や写真を見ると、星がついた屋根は白っぽいので、この青は後年塗り替えられた色と思われます。)]

 大聖堂の内部

ぽてっとかわいらしい外観とは裏腹に、大聖堂の内部は、窓から光がさーっと斜めに差すなんとも荘厳な空間でした。聖人達の肖像画に一斉に見下ろされ、信者でなくとも目を伏せて謙虚な気持ちになり…なり……。私なんぞのにわか厳かムードは、まるで中華鍋で豪快に炒飯をつくっているかのような金属音に軽く駆逐されます。当番らしき5〜6人の女性達が腰を曲げて、石の床面で固まったろうそくの赤いしずくを、小さなシャベルで勤勉にこそげ落としまくっているのでした。

この先目をつぶればいつでも思い浮かべてうっとりできるように、再び大聖堂の外観を心ゆくまで目に焼き付けたら、モスクワへ、日本へ、さあ帰らなくては。余韻に浸り、そして見たかったものを見終わってしまったぽっかりした気持ちを噛みしめながら、来た道を戻りました。

 

ポストカード

モスクワで描いた教会のイラストをポストカードに。
2枚組を5名の方にプレゼントします。

プレゼントの詳細はコチラ

 

【筆者紹介】
村野氏村野千草(むらの・ちぐさ)

北海道生まれ。大学で西洋史を専攻、セツ・モードセミナー卒。いつもどこか異国の街を歩きたいと妄想しているイラストレーター兼グラフィックデザイナー。趣味は洋裁。旅のスタートは、まずそのための洋服を縫うところから。

ポストカード旅先の風景のイラストを活版印刷で刷ったポストカードを販売しています。税込み定価は1枚324円です。お問い合わせは、中野活版印刷店(メール:kappan@nakano.bz または 電話:03-3220-3031)へ。