黒川文雄「デジタル蜘蛛の糸」

著者/黒川文雄

 現代人は、デジタル・メディアの中に生きる“デジタル蜘蛛”だ。パソコンや携帯電話といったデジタル・ツールでコミュニケーションの細い糸を張り巡らし、その手足を複雑な糸に絡ませながら、情報発信&受信に腐心している……エンタメ系コラムニスト黒川文雄が、そんなデジタル蜘蛛社会を取り巻く“ネットメディアの現在進行形”を紡いでいく。


黒川文雄
(くろかわふみお)

 1960年、東京都出身。20代〜30代にかけて、音楽・映画・ゲームの有名企業に籍を置き、03年に独立し、(株) デックスエンタテインメントを起業。ソフト流通、オンラインゲームや邦画制作のプロデュースを手がける。エンタテインメントソフトへの愛を重ねるプロデューサー。現在、コメンテーター、コラムニストとしても活躍中。

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WEBスペシャル連載コラム 黒川文雄「デジタル蜘蛛の糸」
著者/
黒川文雄

プラダを着た携帯

vol.1 2008年6月4日

 現代社会を生きる我々にとって携帯電話は必須アイテムです。現代の三種の神器と言っても差し支えないでしょう。あとふたつってなんだろう……パソコン、ゲーム機なのでしょうかね。でも、思い出してみてください。10年ほど前は、僕らは携帯電話のない生活をしていたわけです。デートの約束をしても、待ち合わせの場所でめぐり合えなくて涙を呑んだこともありました。待ち合わせ時間に遅れても連絡が出来ず、カノジョが怒って帰ってしまったことも……。

 さて、携帯電話が生活にもたらしてくれた便利さ・自由さは言葉に表せないほどの利便性を体現してくれました。単なる通話というコミュニケーションのツールだったものが、ポケベルの延長線であるメール機能が付加され、そして、iモードなどのエンタテインメント系コンテンツやユーティリティコンテンツの充実で、なんでもできるツールに深化を遂げました。

 僕が一番最初に見た携帯電話は、友人の会社社長が持つ飯盒(はんごう)みたいなボックスケース型のもので、まるで戦場で使用するような無線機のようなものでした。その社長は新しいモノ好きだったこともあり、半年くらいすると、今度は、大き目の「羊羹(ようかん)」のような携帯電話に持ち替えました。そして、月日は流れ、気がつくと僕自身も携帯電話を持つようになり、携帯電話はどんどんと薄型になり、高機能を謳うようになったわけです。

 いまさら、なぜ、こんなことを書いているのかというと、先日、ビックカメラ新橋店の店頭を通りがかったときに、一部のファッションマニアやオシャレ通の間で噂になっている「PRADA」の携帯モックモデルを見ることができたからです。なかなかクールでシンプルでカッコいいデザイン。しかし、「えっ、これってどうやって使うの?」と、スライドしたり、フタが開くのかと、いろいろと試しましたが、結局のところ、タッチ式ということがわかりました。あれこれと、イジっていた自分がバカかと思いましたが、いわゆる「ipodタッチ」みたいなものでした。とにかく、新しいデザインや操作感が味わえそうな感じです。

 デザインと実用性の共有はマイクロテクノロジーのなかで常に大きな課題です。しかし、今回のPRADA携帯を見て思ったことはもっとシンプルです。それは、あのPRADA(イタリア)の選んだパートナーが、韓国を本拠にする企業「LG電子」だったということです(LG電子を卑下しているわけではありません)。日本の通信方式はW-CDMAで3Gと呼ばれる方式を採用しています。ゆえに国内用の携帯電話では海外使用がままならないということがありました。ちなみに世界で一番普及している通話方式はGSMで、ヨーロッパを中心に通話範囲が拡張されていきました。結局のところ、なぜLG電子の携帯デザインがPRADAの目に留まったかは、ミウッチャ・プラダに聞かなければわかりませんが、どうやら通信方式というわけでもなさそうです。ということは、“デザイン”に尽きるのでしょう。かつては日本やアメリカのプロダクツをコピーすることでビジネスの展開を広げてきた韓国にも新しいデザインの波が起こってきたようです。ソニーエリクソンでもなく、斬新なデザインで知られるノキアでもなく、スタンダードなデザインで知られるパナソニックでもなかったということが、日本のプロダクトデザインの未来を語る上で重要なことだと思います。すでにデザイン面では日本デザインは韓国デザインに凌駕されてしまったのでしょうか。厭味な見方をすれば、今回のPRADAモデルは「i phone」デザインの亜流のようなものですが、それをLG電子がリリースしてきたこと、そしてそれをPRADAが採用してカスタマイズド携帯電話としてリリースしたことに、マーケットの大きな転換期を感じます。

 PRADAの携帯電話、かっこいいと思います。しかし、PRADAの携帯電話を持って、ヴィトンのバッグを愛用し、シャネルのセラミック時計をしている日本人の感性ってどうなんだろうか?とも思いました。カッコいいと思う反面、ある種の割りきりとか、開き直りがないと、この携帯電話は持てないのではないか?と思うのは考えすぎなんでしょうかね。そして、僕ら消費者は機能の深化はもうオナカいっぱいですので、日本のドメスティックなハードメーカーには、デザイン面でのスマートさ、クールさを追求してほしいと思います。

 がんばれニッポン!の携帯電話。

(黒川文雄)

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