斉藤守彦
(さいとうもりひこ)
1961年、静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、映画ジャーナリスト/アナリストに。「INVITATION」誌ほか、現在多数のメディアで執筆中。映画業界内の多種のデータを検証し、その卓抜とした切り口・語り口が多くのファンに支持されている。
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いよいよ最終回かあ。
長くやってるように感じるけど、1年と8か月だったんだなあ……。
最後の作品は「沈まぬ太陽」。最終回に相応しい。
そーかあ?
あれ? 文句ある?
いや、我々の時代であれば、山崎豊子の小説であれば、必ず山本薩夫監督と相場が決まっていた。「白い巨塔」「金環蝕」「不毛地帯」「華麗なる一 族」……。
でも、山崎小説を最初に映画化したのって、川島雄三監督なんだぜ。「暖簾」がそう。
えっ? そーなの?……それは知らなかった。でも、なんでよりによって川島監督……。
それはともかく、「沈まぬ太陽」は若松節朗監督。いくらなんでも山本監督は亡くなられて久しいし。
上映時間の3時間22分は、まったく感じなかった。重たくもないし、退屈もしない。
ほう。それは大したもんじゃないか。
どうしても、山本監督時代の作品と比較してしまうんだけど、演出の仕方がまったく違うんだね。
どういうこと?
例えば「白い巨塔」とか「金環蝕」を見た時、「こんなに面白い映画が、世の中に存在するのか!?」と僕は思った。それってストーリーの中の善悪がはっきりしていて、次から次へとたたみ掛けるようなテンポで描いたからなんだな。
誰が悪い奴で、誰が良いヤツか、確かにひと目見れば分かる。
それが「沈まぬ太陽」の場合、例えば三浦友和が、かつて渡辺謙(の役)と一緒に組合運動に燃えるものの、その後は会社に従属して出世街道を行く。つまり主人公と対立するという意味では悪役なんだけど、完全な悪役としては描いていない。
じゃあ、どういう風に描いてるのさ?
あたかも「この人には、この人の都合や考えがあって、会社側についたんですよ」とでも言うような……。
なんだか分かりにくいなあ。一言で言って、山本薩夫監督の時とは、何がどう違うのさ?
そうだなあ。山本監督作品は、つまりロジカルだったんだ。善悪をはっきりさせて、その上で論理的な展開をした。ところが今回の若松監督は、それとは逆に“情”に訴えかける演出をしているね。
“情”?
そうそう。つまり善悪の理屈で登場人物を色分けするのではなく、ひとりひとりのキャラを、もっとじっくり描いている。この映画に出てくる人物は、きっと「自分の身の回りにもこんなヤツ、いるいる」といった、親近感を感じるんじゃないかな?
でも主人公である渡辺謙が、どういう活躍をするかが、一番の見どころなんだろうが?
今回謙さんは、とことん耐えます。会社から理不尽な指令を出されても、黙ってそれに従う。怒ったりグチったり、一切しない。
それって映画になるの?
だからさあ、前時代の山崎小説の映画化だったら、それは成立しないさ。山本監督のように、ロジカルな勧善懲悪モノにならざるを得ない。
でも、「沈まぬ太陽」は、“情”に訴えかける演出で、堪え忍ぶ謙さんを、延々描写するんだろ?
なんだか往年のヤクザ映画の健さんみたいな感じだなあ(笑)。
ケンさん違い、それ(笑)。
だって今、実際の社会を見ても、善悪がはっきりしていることって、あまりないでしょ。グレイゾーンなものが多すぎる。
政権取った民主党が善で、破れた自民党が悪、なんていう単純な理屈は確かに通用しないしなあ。
だから「沈まぬ太陽」に登場するキャラたちの誰が善で、誰の行いが悪なのかは、観客の判断に委ねられている。その上で、ひたすら耐える謙さんをどう見るか。個人的な見解だけど、こういう渡辺謙の姿は女性層、特に中高年のご婦人たちに、強くアピールすると思うよ。
母性本能がくすぐられるって?
言ってみれば、どこの家庭のダンナさんも、同じように会社と家庭の板挟みになっていたり、ジレンマに陥っていたりするわけでしょ。それを間近で見ているご婦人たちだって、色んな思いがある。
君が良く言う「今、映画に求められるものは憧れより共感」ってこと?
ああ、そうかもしれないねえ。今、気づいた(笑)。
大作の風貌を持ちながら、観客の共感を促す。凄い映画じゃないか。
うーん……正直、なんでこうなっちゃうんだろう?って場面もないことはない。それと企業の重役を演じる俳優たちが、どう見ても貫禄不足で、今日本で重厚なドラマを作ろうとしても、演じられる俳優がいないんだなあ……という絶望も感じたりするしね。
でもまあ、見応えのある作品のようだし。
この連載の最後を飾るに相応しい作品になったなあ。
……そ、そーかなあ……?
これで、いいのだ!!!
(斉藤守彦)
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