日本映画、疾走

映画ジャーナリスト/斉藤守彦
シネマタグ〜週末はコレだ!
(バックナンバー)

斉藤守彦
(さいとうもりひこ)

1961年、静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、映画ジャーナリスト/アナリストに。「INVITATION」誌ほか、現在多数のメディアで執筆中。映画業界内の多種のデータを検証し、その卓抜とした切り口・語り口が多くのファンに支持されている。

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WEBスペシャル連載コラム日本映画、崩壊
映画ジャーナリスト/
斉藤守彦

「沈まぬ太陽」

最終回vol.45 2009年10月28日

“情”に訴える演出が女性層に支持されるだろう……

いよいよ最終回かあ。

長くやってるように感じるけど、1年と8か月だったんだなあ……。

最後の作品は「沈まぬ太陽」。最終回に相応しい。

そーかあ?

あれ? 文句ある?

いや、我々の時代であれば、山崎豊子の小説であれば、必ず山本薩夫監督と相場が決まっていた。「白い巨塔」「金環蝕」「不毛地帯」「華麗なる一 族」……。

でも、山崎小説を最初に映画化したのって、川島雄三監督なんだぜ。「暖簾」がそう。

えっ? そーなの?……それは知らなかった。でも、なんでよりによって川島監督……。

それはともかく、「沈まぬ太陽」は若松節朗監督。いくらなんでも山本監督は亡くなられて久しいし。

上映時間の3時間22分は、まったく感じなかった。重たくもないし、退屈もしない。

ほう。それは大したもんじゃないか。

どうしても、山本監督時代の作品と比較してしまうんだけど、演出の仕方がまったく違うんだね。

どういうこと?

例えば「白い巨塔」とか「金環蝕」を見た時、「こんなに面白い映画が、世の中に存在するのか!?」と僕は思った。それってストーリーの中の善悪がはっきりしていて、次から次へとたたみ掛けるようなテンポで描いたからなんだな。

誰が悪い奴で、誰が良いヤツか、確かにひと目見れば分かる。

それが「沈まぬ太陽」の場合、例えば三浦友和が、かつて渡辺謙(の役)と一緒に組合運動に燃えるものの、その後は会社に従属して出世街道を行く。つまり主人公と対立するという意味では悪役なんだけど、完全な悪役としては描いていない。

じゃあ、どういう風に描いてるのさ?

あたかも「この人には、この人の都合や考えがあって、会社側についたんですよ」とでも言うような……。

なんだか分かりにくいなあ。一言で言って、山本薩夫監督の時とは、何がどう違うのさ?

そうだなあ。山本監督作品は、つまりロジカルだったんだ。善悪をはっきりさせて、その上で論理的な展開をした。ところが今回の若松監督は、それとは逆に“情”に訴えかける演出をしているね。

“情”?

そうそう。つまり善悪の理屈で登場人物を色分けするのではなく、ひとりひとりのキャラを、もっとじっくり描いている。この映画に出てくる人物は、きっと「自分の身の回りにもこんなヤツ、いるいる」といった、親近感を感じるんじゃないかな?

でも主人公である渡辺謙が、どういう活躍をするかが、一番の見どころなんだろうが?

今回謙さんは、とことん耐えます。会社から理不尽な指令を出されても、黙ってそれに従う。怒ったりグチったり、一切しない。

それって映画になるの?

だからさあ、前時代の山崎小説の映画化だったら、それは成立しないさ。山本監督のように、ロジカルな勧善懲悪モノにならざるを得ない。

でも、「沈まぬ太陽」は、“情”に訴えかける演出で、堪え忍ぶ謙さんを、延々描写するんだろ?

なんだか往年のヤクザ映画の健さんみたいな感じだなあ(笑)。

ケンさん違い、それ(笑)。

だって今、実際の社会を見ても、善悪がはっきりしていることって、あまりないでしょ。グレイゾーンなものが多すぎる。

政権取った民主党が善で、破れた自民党が悪、なんていう単純な理屈は確かに通用しないしなあ。

だから「沈まぬ太陽」に登場するキャラたちの誰が善で、誰の行いが悪なのかは、観客の判断に委ねられている。その上で、ひたすら耐える謙さんをどう見るか。個人的な見解だけど、こういう渡辺謙の姿は女性層、特に中高年のご婦人たちに、強くアピールすると思うよ。

母性本能がくすぐられるって?

言ってみれば、どこの家庭のダンナさんも、同じように会社と家庭の板挟みになっていたり、ジレンマに陥っていたりするわけでしょ。それを間近で見ているご婦人たちだって、色んな思いがある。

君が良く言う「今、映画に求められるものは憧れより共感」ってこと?

ああ、そうかもしれないねえ。今、気づいた(笑)。

大作の風貌を持ちながら、観客の共感を促す。凄い映画じゃないか。

うーん……正直、なんでこうなっちゃうんだろう?って場面もないことはない。それと企業の重役を演じる俳優たちが、どう見ても貫禄不足で、今日本で重厚なドラマを作ろうとしても、演じられる俳優がいないんだなあ……という絶望も感じたりするしね。

でもまあ、見応えのある作品のようだし。

この連載の最後を飾るに相応しい作品になったなあ。

……そ、そーかなあ……?

これで、いいのだ!!!

(斉藤守彦)

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