日本映画、疾走

映画ジャーナリスト/斉藤守彦
日本映画、崩壊」その後
(バックナンバー)

斉藤守彦
(さいとうもりひこ)

1961年、静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、映画ジャーナリスト/アナリストに。「INVITATION」誌ほか、現在多数のメディアで執筆中。映画業界内の多種のデータを検証し、その卓抜とした切り口・語り口が多くのファンに支持されている。

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WEBスペシャル連載コラム日本映画、崩壊
映画ジャーナリスト/
斉藤守彦

2007年映画概況から見えてくる、我が国映画産業の、大いなる危機感

プレオープン 2008年2月6日

 日本映画製作者連盟(映連)による、2007年映画概況を発表する記者会見が、1月31日午後から都内のホテルで行われた。登壇したのは例年通り松岡功映連会長(東宝会長)と、松竹、東宝、東映、角川映画の社長たちだ。

 当日発表された2007年における我が国映画産業の成果は、年間入場人員1億6319万3000名、興行収入1984億4300万円で、そのうち邦画が946億4500円、洋画は1037億9800万円。邦洋のシェアは邦画47.7%対洋画52.3%となり、一昨年21年ぶりに洋画を上回った邦画だが、その優勢は三日天下ならぬ一年天下で終わってしまった。

 いわゆる「映画人口」=全国映画館入場者数が1億6000万名台にとどまり、年間興収もまた2000億円の大台を割った。このことに対して松岡映連会長は「入場人員が前年対比0.8%、興収が2.2%ダウンしたにすぎない」と、ここ数年の好調ぶりをあらためて示唆したが、果たして本当にそうなのだろうか?

 2006年に3062スクリーンを数えた全国映画館数は、2007年に3221スクリーンとなった。差し引き159スクリーンの増加で、パーセンテージにして5.19%マーケットが拡大したことになる。それなのに入場人員も年間興収も一昨年を下回っている。

「年間興収が最低だった1996年の時点で、1スクリーンあたりの興収は8100万円。これが去年は6100万円にまで落ちている。興行は、これから苦しくなるだろう」と松岡会長。我が国では配給会社と興行会社が同一資本によって運営されていることから、映画館の収入減は、配給会社にとってもダメージが大きいのである(→「日本映画、崩壊」第9章 P194「映画会社とは、興行会社か? 配給会社か?」参照)。とりわけ東宝は、現在国内トップのスクリーン数を誇っており、関連興行会社の年間興収は、実に国内シェア23.38%を占めている。それだけに「配給会社としては絶好調だが、興行会社の親会社としては予断を許さない」というところが本音だろう。いくら配給で稼いでも、興行が不振では連結決算に悪影響を及ぼすわけだから。

「映画館のハードの優位性だけで観客が来る時代は終わった。これからは観客の望む映画をいかに作るかが勝負だ」とは、またしても松岡会長の発言だが、正直このフレーズを聞いた時は、いささか面食らってしまった。観客が映画を見に映画館に足を運ぶ。その動機と目的は、いついかなる場合も「作品を鑑賞する」ことだ。真っ白いスクリーンを眺めるために、世界一高い入場料金を払う人間はいない。第一に「作品を楽しむ」、そして次に「新しいシネコンが出来たようだから、行ってみようか」ということになるわけで、その順位が逆転することはあり得ない。「観客の望む映画をいかに作るか」。すなわち顧客のニーズに応えることは、あらゆる産業にとって当然なすべき基本中の基本だ。あらためてこの場で言うべきことでもないだろう。

 では現在の邦画大手各社が、「観客の望む映画を作る」ことが出来るかといえば、現状を見る限り、イエスとは言えない。お歴々がなんと言おうと、作品製作のイニシアティヴは、テレビ局を中心とする外部企業が握るようになって久しいからだ。それは会見で発表された、2007年の日本映画のヒット作の顔ぶれを見れば一目瞭然。

 記者会見の当夜と翌日の新聞、スポーツ新聞には、予想通り「再び洋高邦低」の見出しが踊った。そんな中、朝日新聞は文化面を大きく割いて“圧勝・東宝、TVが主導”と、東宝の昨年の実績を讃えた。おいおい、天下の朝日が提灯記事かいな?……とばかりに記事を読むと、紙面には東宝がいかにヒット作を配給しているか、製作元であるテレビ局から、いかに信頼を得ているかが、当事者のコメントと共に連呼されていた。

 確かに表面的な数字だけを見れば、東宝はここ数年空前の好業績を上げているが、現在、分社化と再編成を進めている興行部門は、先に挙げた通り、決して楽観できない状況だ。子会社であるTOHOシネマズが、不採算となった地方のシネコンを地元業者に事業譲渡しているのは、その危機感の表れだ。

 圧勝する会社も、される他社としても、配給と興行が一体化している我が国の映画産業は、今大きなガケっぷちに立っているのである。

(斉藤守彦)

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